人材不足の会社でも留学生が就職できなかった現状
今までは、日本の大学を卒業した留学生が、就労ビザの問題で、就職できないケースが多々ありました。
これは、日本の就労ビザが外国語を使う仕事や、技術者等の仕事に限られてきたからです。
しかし、人材不足といいながら、一方で就職したい留学生がいて、採用したい企業があって、なのにそれを入管法で阻害するのはどうなのか?
という声も多く、留学生の活用が産業界から叫ばれていました。
留学生の就労ビザが緩和
そこで、ずっと引き延ばされてきた告示改正がやっと2019年5月30日になされました。
この改正により、日本語を使う接客業等のレストランやデパート等のサービス業で現場で働くことや、機械部品や食品製造業などで自らもラインに立ちながら、日本語ができない技能実習生などを取りまとめたりする仕事につけるようになります。
一方で、スナックやバーのスタッフやキャバクラでのホステス等の風俗営業活動については、一応日本語を使う仕事ですが、従来通り就労はできません。
留学生の特定活動ビザ取得の条件
この改正による、留学生の特定活動ビザ取得の条件は次の通りです。基本的に日本の大学を卒業又は大学院の課程を修了し,学位を授与された方で,高い日本語能力を有する方が対象となります。
1.常勤の従業員として雇用され、本邦の大学又は大学院において修得した知識や能力等を活用することが見込まれること
→本業務については、「日本語を用いた円滑な意思疎通を要する業務」であることが必要です。
この「日本語を用いた円滑な意思疎通を要する業務」とは,単に雇用主等からの作業指示を理解し,自らの作業を行うだけの受動的な業務では足りず,いわゆる「翻訳・通訳」の要素のある業務や,自ら第三者へ働きかける際に必要となる日本語能力が求められ,他者との双方向のコミュニケーションを要する業務であることを意味します。
次に、「本邦の大学又は大学院において修得した広い知識及び応用的能力等を活用するものと認められること」については、従事しようとする業務内容に「技術・人文知識・国際業務」の在留資格の対象となる学術上の素養等を背景とする一定水準以上の業務が含まれていること,又は,今後当該業務に従事することが見込まれることを意味します。
つまり、完全に工場のラインのみで機械部品の仕分け作業を繰り返すような仕事をするような場合は特定活動ビザは取得できません。
2.本邦の大学(短期大学は除きます)を卒業し、又は大学院の課程を修了して学位を授与されたこと
→日本の4年制大学の卒業及び大学院の修了に限られます。短期大学及び専修学校の卒業並びに外国の大学の卒業及び大学院の修了は対象になりません。就労ビザの代表例である「技術・人文知識・国際業務」は海外の大学もOKですし、短大卒以上ですので、特定活動ビザのほうが厳しくなっています。
3.日本人と同等額以上の報酬を受けること
→ここは、「技術・人文知識・国際業務」と同じです。一定の報酬額を基準として一律に判断するものではなく,地域や個々の企業の賃金体系を基礎に,同種の業務に従事する日本人と同等額以上であるか,また,他の企業の同種の業務に従事する者の賃金を参考にして日本人と同等額以上であるかについて判断します。
また,本制度の場合,昇給面を含めて,日本人大卒者・院卒者の賃金を参考とします。
その他,元留学生が本国等において就職し,実務経験を積んでいる場合,その経験に応じた報酬が支払われることとなっていることについても確認します。
4.高度な日本語能力を有すること(N1相当)
→基本的に、 日本語能力試験N1又はBJTビジネス日本語能力テストで480点以上を有する方が対象です。その他,大学又は大学院において「日本語」を専攻して大学を卒業した方については,この条件を満たすものとして取り扱います。
なお,外国の大学・大学院において日本語を専攻した方についても,この条件を満たすものとして取り扱いますが,この場合であっても,併せて日本の大学・大学院を卒業・修了している必要があります。
この点、「技術・人文知識・国際業務」で翻訳、通訳職に就く場合は、N1が望ましいとされています。
ただ、N1がなくても、N2レベルで認められている例も多々あることを踏まえると、「技術・人文国際業務」より厳しい気がします。
留学生の特定活動ビザの 具体的な活動例
本制度によって活動が認められ得る具体的な例は以下のとおりです。
ア 飲食店に採用され,店舗において外国人客に対する通訳を兼ねた接客業務を行うもの(それに併せて,日本人に対する接客を行うことを含む。)。
→厨房での皿洗いや清掃にのみ従事することは認められません。
イ 工場のラインにおいて,日本人従業員から受けた作業指示を技能実習生や他の外国人従業員に対し外国語で伝達・指導しつつ,自らもラインに入って業務を行うも
の。
→ ラインで指示された作業にのみ従事することは認められません。
ウ 小売店において,仕入れや商品企画等と併せ,通訳を兼ねた外国人客に対する接客販売業務を行うもの(それに併せて,日本人に対する接客販売業務を行うことを
含む。)。
→商品の陳列や店舗の清掃にのみ従事することは認められません。
エ ホテルや旅館において,翻訳業務を兼ねた外国語によるホームページの開設,更新作業を行うものや,外国人客への通訳(案内),他の外国人従業員への指導を兼
ねたベルスタッフやドアマンとして接客を行うもの(それに併せて,日本人に対する接客を行うことを含む。)。
→ 客室の清掃にのみ従事することは認められません。
オ タクシー会社に採用され,観光客(集客)のための企画・立案を行いつつ,自ら通訳を兼ねた観光案内を行うタクシードライバーとして活動するもの(それに併せ
て,通常のタクシードライバーとして乗務することを含む。)。
→ 車両の整備や清掃のみに従事することは認められません。
カ 介護施設において,外国人従業員や技能実習生への指導を行いながら,外国人利用者を含む利用者との間の意思疎通を図り,介護業務に従事するもの。
→施設内の清掃や衣服の洗濯のみに従事することは認められません。
上記のように、業務内容は幅広いですが、要は「日本語を使うことが職務を行う上で重要」な仕事であることが必要です。
実務上は、多少「単純労働も」行うことは一定の範囲で認めるものの、あまり言葉を使わない「単純労働のみ」行うことはできませんし、「単純作業がメイン」である場合も、原則的には認めがたい、ということになりそうです。
業務の契約形態等について
「法務大臣が指定する本邦の公私の機関との契約に基づいて,当該機関の常勤の職員として行う当該機関の業務に従事する活動」について
(1)申請内容に基づき,「指定する活動」として以下のとおり活動先の機関が指定され,「指定書」として旅券に貼付されます。転職等で活動先の機関が変更となった場合は指定される活動が変わるため,在留資格変更許可申請が必要です。
(2)指定書に記載される機関名は,契約先の所属機関名であるため,例えば同一法人(法人番号が同一の機関)内の異動や配置換え等については,在留資格変更手続は不要です。
他方で,転職等により契約の相手方が変更となった場合は,新たに活動先となる機関を指定する必要があるため,在留資格変更許可申請が必要です。
(3)当該機関の常勤の職員として行う当該機関の業務に従事する活動であることから,フルタイムの職員としての稼働に限られ,短時間のパートタイムやアルバイトは対象になりません。
(4)契約機関の業務に従事する活動のみが認められ,派遣社員として派遣先において就労活動を行うことはできません。
(5)契約機関が適切に雇用管理を行っている必要があることから,社会保険の加入状況等についても,必要に応じ確認を求めることになります。
その他の注意点について
(1)在留資格の変更及び在留期間の更新許可申請
在留資格の変更及び在留期間の更新許可申請においては,次の事項についても確認します。
ア 素行が不良でないこと
素行が善良であることが前提となり,良好でない場合には消極的な要素として評価されます。例えば,資格外活動許可の条件に違反して,恒常的に1週について28時間を超えてアルバイトに従事していたような場合には,素行が善良であるとはみなされません。
イ 入管法に定める届出等の義務を履行していること
入管法第19条の7から第19条の13まで及び第19条の15に規定する在留カードの記載事項に係る届出,在留カードの有効期間更新申請,紛失等による在留カードの再交付申請,在留カードの返納等の義務を履行していることが必要です。
(2)家族の滞在
上記(1)の活動を指定された者の扶養を受ける配偶者又は子については「特定活動」(本邦大学卒業者の配偶者等)の在留資格で,日常的な活動が認められます。
留学生の特定活動ビザ取得のための提出資料
1 在留資格決定時(在留資格認定証明書交付申請・在留資格変更許可申請)
(1)申請書(在留資格認定証明書交付申請書又は在留資格変更許可申請書)
(2)写真(縦4cm×横3cm)
(3)返信用封筒(定形封筒に宛先を明記の上,392円分の切手(簡易書留用)を貼付したもの) 1通 (在留資格認定証明書交付申請時のみ)
(4)パスポート及び在留カード(在留資格変更許可申請時のみ)
(5)申請人の活動内容等を明らかにする資料
労働基準法第15条第1項及び同法施行規則第5条に基づき,労働者に交付される労働条件を明示する文書(写し)
(6)雇用理由書
雇用契約書の業務内容から,日本語を用いた業務等,本制度に該当する業務に従事することが明らかな場合は提出不要です。
所属機関が作成したものが必要です。様式は自由ですが,所属機関名及び代表者名の記名押印が必要です。
(7)申請人の学歴を証明する文書
卒業証書(写し)又は卒業証明書(学位の確認が可能なものに限ります。)
(8)申請人の日本語能力を証明する文書
日本語能力試験N1又はBJTビジネス日本語能力テスト480点以上の成績証明書(写し)。
なお,外国の大学において日本語を専攻した者については,当該大学の卒業証書(写し)又は卒業証明書(学部・学科,研究科等が記載されたものに限ります。)
(9)事業内容を明らかにする次のいずれかの資料
ア 勤務先等の沿革,役員,組織,事業内容(主要取引先と取引実績を含む。)等
が記載された案内書
イ その他の勤務先等の作成した上記アに準ずる文書
ウ 勤務先のホームページの写し(事業概要が確認できるトップページ等のみで可)
エ 登記事項証明書
(注)転職による在留資格変更許可申請については,(7)及び(8)は不要です。
2 在留期間更新時
(1)申請書(在留期間更新許可申請書)
(2)写真(縦4cm×横3cm)
(3)パスポート及び在留カード
(4)課税証明書及び納税証明書(証明書が取得できない期間については,源泉徴収票
及び当該期間の給与明細の写し,賃金台帳の写し等)
※上記は最低限必要な資料であり、実際の申請においては、立証責任は申請者の側にあります。そのため、どのような資料、説明が必要かは申請者の側で考えて申請を行う必要があります。
今までの就労ビザとの違いとして、必須資料の中に、「源泉徴収等の法定調書合計表の写し」がなくなっています。他の就労ビザの場合、原則的に「源泉徴収等の法定調書合計表の写し」が必要で、例えば上場企業や1500万円以上の源泉徴収額を行っている企業については、書類が省略されるという特典がありました。
しかし、この留学生からの就職の場合の特定活動ビザについては、上記書類が不要ですので、従業員をたくさん雇用しているような大企業であっても、書類は基本的に同じ、と考えることになるかと思います。
留学生の就労と特定活動ビザの注意点
では、この改正につき、どのようなことが起こりうるのでしょうか?
留学生の就労と特定活動ビザの注意点につき、思うところを述べます。
1.「特定活動ビザ」は「技術・人文知識・国際業務」と条件的にはあまり変わらない?
留学生で、日本語がN1レベルであって、オフィスで働くよりも「サービス業で接客が好き、製造業のラインでコツコツと働きたい」という方は、「特定活動ビザ」取得を目指す方向でいいかと思います。
しかし、どちらかといえば、このような方は少数派と思われます。
なぜなら、留学生の多くは、留学に多額の費用、労力を費やしてきているので、事務系や営業系等、どちらかといえば現場よりもオフィスで働いていたい、という方が多いからです。
人材不足の昨今、N1を持っているとすると、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格をもって就職できる可能性はかなりあります。
ですので、そのような方はわざわざ「特定活動」を使う必要はありません。
現在、人手不足でホワイトカラーの人材も必要とされているので、留学生で、N1を持っているならば、安易に特定活動ビザに走らず、就職活動を頑張って、普通に就職した方が良いかもしれません。
2、特定活動ビザでは高度人材ビザが取れない
日本には、高度人材ポイント制という制度があります。
この高度人材ポイント制においては、大学院卒やN1を持っていると、ポイントが加算され、非常に有利です。
具体的には、日本の大学院卒+修士+N1保持者は高度人材ポイントが45点あります。
さらに、29歳以下:+15点、日本のトップ13校(有名大学)卒業:+10点=合計70点となり、70点以上という高度人材ビザの条件を満たします。
つまり、「技術・人文知識・国際業務」のビザであれば十分に高度専門職を狙えます。
ですから、高度人材ビザを将来的に考えている留学生は特定活動ビザよりも頑張って技術・人文知識・国際業務ビザの取得を目指すことが必要です。
3.永住許可申請ができるかどうかわからない
この留学生の特定活動ビザにも「5年」や「3年」のビザがあります。
したがって、形式上は永住申請は可能です。
ただ、他の就労ビザと違い、今回告示が改正されて新しい「特定活動」が出来たように、入管法を改正しなくても入管はこの「特定活動」をいつでも自由になくすこともできます。
なので、しばらくはないとは思いますが、トラブルが激増したり、人材供給が不要になったりしたら、特定活動が廃止され、永住ができなくなるリスクはあります。
当事務所のサービス
今後の運用はわかりませんが、今回の改正で留学生で接客業務を行いたい人、例えば居酒屋やレストラン、小売店等で働きたい留学生にとっては就職のチャンスがやや拡大したといえるでしょう。
ただ、実際のビザの申請においては、職種が微妙であるケース等、難しいケースが多数存在することは容易に予測できます。
当事務所では、そのような方のため、ビザ申請をサポートしております。
留学生を積極的に採用していきたい企業様は、どうぞお気軽にご相談ください。
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